猫の手借りて、オーストラリア大解剖。

オーストラリアで体験したアッと驚く事、信じられない事実をシェアします!

変わりゆく風景と守りたい空間

 

私が西オーストラリア州パースに最初観光で訪れた時、街を歩いているとなにか特別な気持ちを抱いた。ちょっと表現するのは難しいけれど一言で言えば"静粛"と言うのが正しいかもしれない。

 

街や人は動いている、

でもそこに静かに佇む何かが立ち込めたような気配、

歴史的建造物から放たれるその存在感。

 

私はそんな雰囲気がとても好きだった。

建物と建物の間にある"空間"の部分に惹かれたんだとも思う。

 

何故、その空間が気になるのだろうか?

 

私の存在がきっとその空間の中のどこかには必ず合致して、それだから風景自体が優しく包み込んでくれるようなゆったりした気持ちを抱くことが出来たからだ。

 

なんか、穏やかな気持ちになるというときっとしっくりくるだろう。

 

だけれどここ数年、何故か街中を歩いていると自分の居場所が少なくなっている。そんな不安感を覚え始めた。最初は何故だか分からなかったが、新しい建築物が建ち始めてから私の歩く足取りもどんどん早くなって来ているのに気付いた。

 

それは、古い建造物と新しい建造物の間が上手く調合していない違和感もあるが、それだけではない。やっぱり空間が少なくなっているという事に気づいた。空間がなければ景色と自分が調合しない埋もれているのに取り残されてしまうような感覚。

 

私は散歩するのが好きだ。歩いていると、いろいろ考えながら自分を見つめなおせるからだ。散歩のコースには街中も含まれていた。でも今はそんな場所を散歩のためだけに歩く気分がしなくなってしまった。どちらかと言えば、公園とか建物が密集していない所を歩いた方が気持ちが良い。きっと空間が広いからなんだと思う。それにしても、最近は咳き込んでいるのにソーシャルディスタンスを守らない人が多いせいで散歩もする気分にもなれなくなってしまっている。

 

空間が広いと何故いいと思ってしまうんだろうかと考えてみた。

 

 

空間は自己を投影するので、自分の気持ちを結構反映させる事にも気づいた。

きっとその間が受け入れてくれるからだろう。

 

 

要は、空間があると時がゆっくりと感じるので自分自身の気持ちに向き合うことが出来る。自分の気持ちって結構正確に分からない事もあるし、その間によって自分の本心みたいなものが分かる事がある。それが分かれば、その気持ちがどこから来ているのかも考えることが出来るし、自分が本当はどういう風にしていたいのかの答えが見つかる事も多い。

 

一気に騒がしくなった街並み。足取りが早くなり、不安を覚える。でも、その不安要素が何か分からないし空間がないから向き合う事ができない。自分自身の個さえ踏みにじられているような感覚。

 

新しい建築様式は一つ一つ見るととても豪華で個性的で目立つようにできている。でも、空間との調和が足りないせいで何かを感じ取る事が出来なくなった。価値観を一つに合わせ個性が抹殺される現象と少し似ている。

 

毎日、ただ忙しく生きて無表情だった時の自分みたいだ。

自分が思ってもいない表情を作っていたとしたらそれは無表情と同じなんだ。

 

人が楽しかったり、嬉しかったり、辛かったり、悲しかったり、いろんな感情をもっていないなんて死んでいるみたいなんだ。

 

だから今はパースの街並みがあまり好きでなくなった。

 

息をしていない、そんな風に感じてしまう。

 

スワンリバー周辺もすっかり開発が進み、ブリッジが建ったりホテルや高層ビルが建ったりモニュメントが出来たりすっかり賑やかになった。

 

でも、その一方で川の水面をぼーっと見るのが好きだった私の楽しみがなくなってしまった。川と空の境界が天気によって表情が違うから、時間があればそれを眺めて楽しんでいたけれど建造物が建ち並び過ぎたせいでそういう事を楽しむ事が出来なくなった。

 

都市開発が進むうちに川の匂いや色もあっという間に悪くなってしまった。

近づくと、もわっと何とも言えない立ち込める匂いがして眩暈がする。

今では、川に入ると皮膚炎などになる可能性があるので入らないようにと警告されている。

 

若者たちが、水面に浮かぶバーで酒を飲みながら大騒ぎしているのを見ると、その賑やかさとは裏腹に何だか泣きたくなって空虚な気分になる。

 

以前は、スワンリバーはもっと澄んでいてエビが取れたらしい。私よりも何年も前にパースに行った事がある人が私が来たばかりの時にそう教えてくれた。だから、私がスワンリバーが凄く綺麗だと言ってもしっくりこなかったみたいだ。

 

川は海に繋がっているから、海洋汚染が進んでいると言っても大袈裟ではない。近年では西オーストラリア州の海老に白斑が出る病気が多発した。以前は起こらなかった事だ。もしも新しい建造物が生態系まで壊していっているとしたらなんだか寂しく感じてしまう。

 

そういえば、最近は体に魚介類が合わなくなったみたいで食べると下痢になったり体調が悪くなるようになった。海洋汚染も影響しているのかもしれない。

 

風景が歴史の移り変わりとともに変わっていくのは当然かもしれない。

でも、それはそんなに単純ではなく人の生き方や環境にまで影響を与えている事実。

 

少なくとも私は自分の中に抱いている思いや信念だけは変えない人間でいたい。

それを軸にどうやって生きていくかどうすれば幸せなのか考えていきたい。

 

空間の中で自分を見つめながら....。

 

だって風景が移り変わってしまう事は自分ではどうにもできない事だから。

 

 

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